「宇宙戦艦ヤマト 2202 愛の戦士たち」木村 太一氏×本間 靖範氏×上保 友人氏インタビュー(株式会社サブリメイション)
「宇宙戦艦ヤマト 2202 愛の戦士たち」のCGカットを担当された株式会社サブリメイションのスタッフである木村 太一氏、本間 靖範氏、上保 友人氏にお話しを伺いました。
また、巻末にて、代表取締役の小石川 淳氏から同社のプラグインツール作成や人材育成の取り組みについてお話を伺いました。
CGサブディレクター
本間 靖範(ホンマ ヤスノリ)
アニメの3DCGを中心に様々な仕事に関わり、現在は株式会社サブリメイションにて「宇宙戦艦ヤマト 2202 愛の戦士たち」の3DCGサブディレクターとして活躍中。
※写真左
CGディレクター
木村 太一(キムラ タイチ)
IKIF+、プロダクションIGを経て2012年1月にサブリメイションへ入社。主にプロダクションIG関係の作品や遊技機関係の制作に携わる。
「宇宙戦艦ヤマト 2202 愛の戦士たち」ではCGディレクターとして参加。
※写真中央
CGプロジェクトマネージャー
上保 友人(ウワボ トモヒト)
前職のゲーム会社にて小石川氏(サブリメイション代表取締役)とともにプログラマとしてゲーム制作に携わる。
サブリメイション入社時は社内ツールなどのプログラムを作成していたが、現在はアニメーターの作業を主に行っている。
「宇宙戦艦ヤマト 2202 愛の戦士たち」ではプロジェクトマネージャーとして木村氏とともにプロジェクトの管理を主に行っている。
※写真右
「株式会社サブリメイション」について
URL : http://www.sublimation.jp/
2011年07月 | (株)プロダクション・アイジーにフリーランスとして在勤していたCG班の7名と共に独立し、 小石川氏・塚本氏・須貝氏の3名で(株)サブリメイションを設立 |
2012年04月 | フリーランスを正社員化、旧三鷹スタジオを拡張 |
2012年12月 | 社員増員に伴い、府中スタジオを増設 |
2013年09月 | 旧三鷹スタジオを、国分寺スタジオへ移転 |
2015年07月 | 取締役を3名から5名に増員 |
2015年10月 | 業務拡大に伴い、各スタジオを現在の三鷹スタジオへ集約 |
2016年12月 | 名古屋スタジオを開設 |
2017年04月 | 仙台スタジオを開設予定 |
LightWaveを使用した最近の主な作品
- 宇宙戦艦ヤマト 2202 愛の戦士たちBlu-ray & DVD 2017年3月24日(金)発売!
- ひるね姫 〜知らないワタシの物語〜2017年3月18日(土)ROADSHOW
- 魔法使いの嫁 星待つひとTVアニメ化決定
- ペルソナ5(PS4)絶賛発売中!
- ジョーカー・ゲームBlu-ray BOX 上巻 7月27日(水)/下巻 9月28日(水) 発売!
皆さんの簡単な経歴を教えて頂けますでしょうか。
木村氏:僕はまずIKIF+に入社し、2年ほど在籍しました。その後、プロダクションIGに1年ほど在籍し、フリーランスをしばらく続けた後にサブリメイションに入社しました。サブリメイションで今まで携わってきた作品はプロダクションIG作品が多いです。
DS:木村様はサブリメイションの設立時からのメンバーなのですか?
木村氏:設立は2011年7月ですが、その翌年の2012年1月頃に入社しました。入社時はアニメ系の仕事をしておりましたが、2013年からは遊技機系の仕事に携わることが多かったです。
DS:続いて、本間様の経歴を教えていただけますか。
本間氏:在宅のアルバイトで仕事をするところから始めて、いくつかの会社に在籍した後、サブリメイションに来ました。
その後、再び数社で仕事をしてからサブリメイションへ戻り、現在に至ります。
上保氏:一度目に在籍されていた時は、遊技機系やドラゴンクエスト モンスターパレードの仕事を手伝っていただきました。
木村氏:ドラゴンクエスト モンスターパレードは神風動画さんからモデリング、セットアップ、モーションを受注し、当社で制作しました。
DS:続いて、上保様の経歴を教えていただけますか。
上保氏:そもそも私はプログラマでして、前職はゲーム会社でUIやネットワークのプログラムを書いてました。その時に小石川さん(サブリメイション代表取締役)もそのゲーム会社に在籍されていて、プログラマとして一緒に働いていました。
その後、小石川さんがサブリメイションを設立するに至り、私もちょうど転職を考えていたのでサブリメイションへ入社しました。
ツールやプラグインを作るにもまずはLightWaveを使えないとやりづらいため、LightWaveの使い方を学びつつ図書館戦争の劇場版にてアニメーターとして参加しました。その後もプログラムを書いていましたが、ペルソナ5のムービーの辺りからはほとんどプログラム作業はしていません。
今回の「宇宙戦艦ヤマト 2202 愛の戦士たち」はプロジェクト規模も大きく、木村さん一人では管理の人手が足らないため、プロジェクトマネージャーという形でプロジェクトの管理作業をしながら、急ぎで対応の必要そうなカット作業などをしています。
木村氏:上保さんはアニメーターの作業もやっていたので、制作の流れが全部わかっているということで管理を手伝ってもらっています。
上保氏:思考がプログラマ寄りなので、管理にも向いているのではという話が社内でもあり、やらせていただいてます。
DS:プログラムの作業は現在はされていないのでしょうか?
上保氏:時々、周りのスタッフから「こういうツール作れる?」といった依頼があるのですが、それほど工数のかからないツールであれば作っています。社内の様々なプロジェクトで使っているBackburnerにLightWaveのレンダリングジョブを投げるツールも作りました。
本作を制作することになったきっかけを教えてください。
木村氏:前作の「宇宙戦艦ヤマト2199 星巡る方舟」(以降、「ヤマト2199」)の3Dレイアウトを少しですがお手伝いさせていただいて、プロダクションI.Gさんから相談されたのがきっかけです。「ヤマト2199」は3ds MAXの案件だったのですが、僕が担当することになったので「宇宙戦艦ヤマト 2202 愛の戦士たち」はLightWaveで制作することになりました。
上保氏:前作の「宇宙戦艦ヤマト2199 星巡る方舟」は3ds MAXで作られていましたが、当社で引き継いだモデルデータ等は、すべてLightWaveにコンバートして使っています。
木村氏:モデルの修正はほとんどしなかったのですが、前作では、3ds MAXのペンシルを利用してライン出し(輪郭線)をしていましたが、3ds MAXのペンシルとLightWaveでは若干ライン(輪郭線)の見え方が違うので、LightWaveでも同じようなライン出し(輪郭線)をするために手直しをして、ほぼ同じ見え方になるようにコンバートしました。
DS:どのようなデータ形式で3ds MAXから持ってきたのですか?
本間氏:MODOを経由して、FBXで持ってきています。3ds MAXからLightWaveにそのまま持っていくとXYZ軸が変わったりしたので、このあたりを補うためにMODOを経由しています。
上保氏:左がコンバートしてない状態の前作のヤマトになります。右が今作のヤマトです。
今作で変更された部分があるため前作と比べるとヤマトの形状・色味が若干変わっていますが、見た目は基本同じように出るようにしています。
木村氏:オシリとかはだいぶ違う形ですよね。
先日劇場上映された第一章「嚆矢篇」の制作日数と関わられたスタッフの人数を教えていただけますか。
上保氏:モデルデータを前作から引き継いで2016年の3月からコンバート作業をスタートしました。カット作業は8月からですね。
木村氏:エフェクトも3ds MAXで作られているものを、LightWaveで表現するために目でコピーしています。コンバート作業が意外に手間がかかりました。
本間氏:3月からコンバートを初めて、優先順位の高いところから作業し、エフェクトの作業が8月の頭くらいまでですね。7月の終わりくらいからカット作業が始まりました。第一章の実質の作業は11月までですのでおおよそ3〜4ヶ月くらいですね。
木村氏:第一章はコンバートなどの作業があったため結構、時間がかかっています。
上保氏:カット数は、第一章の構成が1話と2話なのですが、1話が350カット中およそ160カットくらいがCGで、2話が260カット中およそ50カットくらいがCGのカットになります。
DS:第一章の中で1話と2話があるんですね。
上保氏:そうなんです。劇場上映版は繋がっているのですが、ブルーレイやDVDで販売する物は話数で分かれています。
DS:160カットというのはCGとしては多いほうなんですか?
木村氏:多いですね。
上保氏:単純に数字を見ても、1話の半分ですからね。第一章「嚆矢篇」は船がたくさん出てくるので単純に物量がありますね。
木村氏:「宇宙戦艦ヤマト 2202 愛の戦士たち」では宇宙の場面になると作画が無くCGばかりになりますので。
上保氏:船内は作画になりますが、船外の場面は全部CGになってしまいます。
木村氏:今回は爆発や物が壊れるエフェクトの部分も作画は少なく、ほぼCGになっています。
DS:何名ほどのスタッフが携わられたんですか?
木村氏:1、2話ではメインの人は11〜12人くらいです。モデラーさんが入れ替わったりはしますが、基本2人くらいは固定させています。
あとは、テクスチャなどの2D周りが1人と、アニメーターが10〜11人くらいです。
本間氏:フリーランスの方をスポットで入れたりもしているので、モデラーとアニメーション込みでだいたい15人くらいになります。
上保氏:第一章の制作の終盤では、平行して第二章の制作も始まっています。
DS:ちなみに第何章まであるのですか?
木村氏:第七章までですね。
本作の制作ワークフローを教えてください。
本間氏:カット制作は基本的には1人で仕上げまでやっています。
上保氏:CGのところはレイアウトがないのでコンテから作業をします。
木村氏:コンテを貰ってそれから、いきなりモーションを作り始めます。
DS:コンバートしてあるモデルデータを使用されているのですか。
木村氏:コンバートが間に合ってない場合はダミーでモーション作成を行う場合もあります。
上保氏:今作からの新規登場のものはある程度シルエットが分かる段階までモデルが出来ていれば、それをダミーとしてモーション作成が可能です。形状さえわかれば、艦船に間接はないですし、リグもそんなに複雑ではありませんので、あとで差し替えることも簡単です。
木村氏:第一章のアンドロメダは最初色が付いていないモデルを動かしたりしていました。
上保氏:モーションができたら監督にチェックをしてもらい、モーションのOKをいただいてからエフェクトを作りこみます。そのため、爆発などはレンダリングコストが重いこともあり、アニマティクス段階では簡易的な形状のものを仮置きすることもあります。
木村氏:撮影の前段階の仮組までをやっています。
DS:撮影もされているのですか?
木村氏:納品までのフィニッシュワークとして、本番用のエフェクトを付けていき、照返しやフレアなど仮組みをしています。そのあと撮影様が色味の調整やセルを馴染ませたり空気感を足したりなどが行われます。
上保氏:左が当社からの納品状態のものになります。このあと撮影処理が入り、遠近感が出たり3Dセルが画面に馴染んだりしています。
DS:今回のワークフローでLightWaveはどこで使われていますか?
木村氏:LightWaveは全部です!
上保氏:最後にAfterEffectsは使いますけどね。
本間氏:ただ、モデリングだけは作業者によって、MODOや3ds MAX、Mayaなどばらばらになりますが、基本的には作業はLightWave中心になります。ちなみに、僕はMODOを使ってます。
木村氏:僕はモデリングもLightWaveですね。
上保氏:社内のモデリングは作業者次第なんですが、カット単位で細かく作るものはLightWaveでちょちょいと作ったりします。
DS:いろいろな3DCGソフトを使用されているとモデルの縮尺が違ったりしませんか?
木村氏:モデルはリアルサイズで作成していますが、カット制作時に一律で1/10で扱っています。そのままのサイズではLightWaveのパーティクルの制御が難しくなるためです。
DS:サブリメイションさんの絵は基本的にセルの表現はAfterEffectsで重ねているんですか?それともLightWaveで出したものをそのまま使用されているのですか?
木村氏:プロジェクトにもよりますね。直近でやらせていただいた遊技機系の仕事は社内ツールのセルシェーダーを利用してレンダリングしてました。
上保氏:最近は素材分けしてAfterEffectsで重ねていますね。
木村氏:今回は「ヤマト2199」からデータを引き継いだので、「ヤマト2199」のほうはテクスチャ貼りで質感を出しているものや、マテリアルに色をつけて質感を出しているものなどが混在しています。
それだとシェーダーを通すのが難しいのと、ものによってはテクスチャ素材が無かったり、影色を作るのにオクルージョンが入っている素材があるのですが、これの元素材が無いという状態でした。
これをLightWaveだけで再現するのは難しかったので、素材を分けてAfterEffectsでセルルックになるように調整しています。
本間氏:レンダリング自体の質感はシンプルな素材にし、コンポジットバッファエクスポートで出力し、AfterEffectで合成しています。この方がソフトのコンバートを問わないで調整できるので。
木村氏:前作のデータを再利用するために、苦肉の策でこういった手法をとっています。
時間的な効率でいうと一発レンダーのほうが本当に時間がなくなったときは助かるのですが、今はまだ比較的時間の余裕があるので素材を分けて作業を行っています。
DS:ヤマトをレンダリングするとだいたいどのくらいかかりますか?
本間氏:けっこう軽いですよ。
上保氏:ヤマト1隻を1フレームレンダリングするのに早くて10秒かからないくらいです。
本間氏:基本的にシェーダーはシンプルにテクスチャを貼っている程度なので、レンダリングコスト自体は10秒から数十秒くらいで、大判のときは1分くらいでレンダリングできます。
木村氏:今回、3ds MAXのデータにターボスムースがかかっていたので、そのままではLightWaveにコンバートできないので、3ds MAX上でフリーズをかけて持ってきているんですよ。
LihtWaveは軽いからヤマトのような100万ポリゴンあるデータでも余裕で作業できるので。ここがLightWaveの強みでもあるので、助かるところです。
DS:エフェクトはどのくらいレンダリングに時間がかかりますか?
本間氏:エフェクトは重いですね。数分程度のものから、1時間かかるものもあります。
DS:戦艦とエフェクトが重なった画がありますが、あれはエフェクトと戦艦別々に出力しているのですか?それとも両方込みで出力しているのですか?
上保氏:分けています。手前の戦艦はマスクというかマットにしてレンダリングしないようにしてから、重なっている部分をレンダリングしています。
一緒にしてしまうとAfterEffects上で重ねたときにエフェクト用の処理が戦艦にも写ってしまい戦艦に色が付いたり光ったりしてしまうので。
木村氏:だいたい素材は奥と手前とかで分けています。
DS:たとえばひとつのカットの中でシーンファイルはどのくらい分けているのですか?
上保氏:船1隻レンダリングするだけでも、シーンとしては最低で3つ、バーニア(エンジンの炎)まで入れると4つですね。
窓とか光っている箇所のマスク素材出し用のシーンが1つ、カラーRGB・ディフューズ・ルミナンスの素材出し用が1つ、あとライン出し用に1つ、さらにバーニアが付いているとそのエフェクト用に1つとなりますので、だいたいヤマト1隻で4つか5つのシーンファイルに分かれています。
木村氏:あとビームや、爆発があればそれだけ増えていきます。
本作の制作で苦労された点や新たな試みなどはありましたでしょうか。
上保氏:うちのチームはそんなに素材を多く分けてAfterEffects上で重ねる作品はやってこなかったので、その辺は不慣れで苦戦しています。
木村氏:今回苦戦したのが線出しですね。線を細したり太くしたりするのをAfterEffectsでやろうとしたのですが、これが逆に裏目にでて、ちらちらすることになってしまって、他のチームに普段どのようにやっているのかを聞いたりしてやりました。
最終的にはちょっと太めにして出したほうが良くないかということになりましたね。LightWaveの線がもうちょっとだけ線が綺麗だと完全に手を加えずにデフォルトで使えるんですけど。まぁ今回一番綺麗な方法はデフォルトで出力する方法でした。
DS:続いて本作で新しい試みはされましたか?
木村氏:インスタンスですかね。
それと、本作からではないんですけど、ここ数年前くらいからAfterEffectsとの連携でLWtoAEを結構使っています。
Nullやカメラの情報を出力できるので使っています。天球とかを3D上でテクスチャを貼って動かしたりする場合は、カメラの情報をLWtoAEでAfterEffectsに持っていってTrapcode Horizon(トラップコード ホライゾン)というAfterEffects用のプラグインを使うと天球をAfterEffectsの中で貼ってくれて微調整はしなければいけないのですが、これを使うことで撮影さんが中身を差し替えて天球の動きを設定できるので、LightWaveに戻り天球にテクスチャを貼ってレンダリングし直す手間が省けます。
アニメだと背景の差し替えがあるので、すべてを3Dでやると背景に修正が入るとこちらに戻ってきてしまうので、なるべく差し替えが利くようにしています。そのためにLWtoAEを結構使っています。
第一章の大戦艦が燃えて火の粉が出ているカットは、カメラと船にある火の粉の発生ポイントをGoAEで持っていってAfterEffects上でパーティキュラ使ったり。LightWaveのほうでレンズを動かしたアニメーションもAfterEffectsに持っていけるし。そこらへんはいいですね。
本間氏:あとはオーバースキャンと組み合わせると合わなくなるので、このあたりを自動で調整してくれる何らかの機能があったらいいなと思います。
DS:AfterEffectsにもっていくとずれるということですね。
本間氏:レンズの値はもとのカメラのデータを引っ張ってくるので広げた分の画角はもっていけないんですよ。
だからオーバースキャン使って何パーセント足しているものは、一緒にレンズの値も自動で計算してAfterEffectsにコンバートしてくれたらいいなと思います。
クリエイター、業界の人からの目線で本作の見どころや、テクニックがあれば可能な限り教えていただけますか?
木村氏:ラティス変形ですかね。レイアウトのフリープラグイン「AS Lattice」を利用したのですが、結構便利でした。ぜひLightWave標準で入れてほしいですね。
上保氏:アニメではパースを誇張して変形させることがあるので、これに合わせてモデルを作成していくと膨大な作業量になります。ラティス変形でそれをカバーできるので便利ですね。
木村氏:ベースのパース変化状態をラティスで作っておいてエンドモーフにして使うと、パース変化の誇張具合の調整が楽なんです。
木村氏:ラティスのデータを保存しておけば、ローモデルでもエンドモーフに同じものを作成できます。
今回サブパッチを使用していないので、変形にボーン入れてしまうと途中から破綻してしまうので、色々苦肉の策でラティスにしたんです。ラティスならメッシュをフリーズしていた場合でもサブパッチみたいに綺麗に曲がるのでそれがラティスのいいところですね。あとパーティクルにも設定できますし。フリーのプラグインですが優秀ですね。
上保氏:だいぶこのプラグインに助けられています。
木村氏:あとテクニックというと、本間君がやったラティスの使い方なんですけど、爆発とか壊れるモデルなどにラティスを使います。同じモデルを2つ用意して、前が潰れてるものと後ろが潰れているラティス変形を用意し、壊れモデルは中央の破砕部分を用意するんです。
上保氏:こういう感じで戦艦が膨らんで爆発するときですね。
木村氏:普通に手で作ると専用のモデルを作らないといけないのですが、ラティスの元オブジェクトの位置をずらせば爆発位置もずらせるし、他の戦艦にも入れ替えることもできます。ラティスは結構割れ物や膨らみなんかにも使用しています。
本間氏:変位マップを上から足してさらに変形させています。後ろは一瞬しか見えませんがこの一瞬が大事なので。あと、ハイパーボクセルで爆発を作っています。
木村氏:ハイパーボクセルが意外に優秀らしいです。
LightWaveを使っていた方がMayaに移行して煙をやろうとしてもハイパーボクセルのような絵が出せないって言ってましたね。
本間氏:パーティクルベースでやるボリューム系ではハイパーボクセルが一番アニメっぽいテイストが出しやすいです。
木村氏:Mayaだとリアルな煙になっちゃうらしいんですよ。もこもこ感が出せないらしいです。
本間氏:他のソフトだとフルイド(fluid)を使う事が多いですが全部が一体になってモワーっとした動きが付いてしまいます。3ds MAXならアフターバーンとかでも出来ますが、ノイズのパターンはLightWaveが使いやすいです。
DS:ハイパーボクセルがあったからこのような爆発の表現ができたのですね。
木村氏:そうですね、昔から変わっていないので、昔のやり方を引き継ぎつつ、すこしづつ変えていっています。
DS:有償のプラグインは使っていますか?
木村氏:使ってないです。
上保氏:今回は当社内だけで完結しているわけではないので、外部に発注することを考えると有料のものより無料のものを導入することになりました。
御社は現在何チーム体制で作業をされているのでしょうか?
木村氏:チームで言うと4チームです。今は、プロダクションIGのチーム、ヤマト2202チーム、ラブライブチーム、魔法使いの嫁チーム。
大きく分けるとこんな感じで、さらにそれぞれのチームの中でさらに細かく分かれていることもあります。
あとはチーム間で手伝うこともあります。
上保氏:そのうち3チームはLightWaveをメインツールにしています。
木村氏:あと今は名古屋スタジオがLightWaveだけを使用しています。名古屋の何人かは将来的にヤマト2202チームに入ってもらうかもしれません。
本間氏:社内ではシンプルなLightWaveの使い方をしているからセンスがあれば簡単に適応できますよね。
上保氏:うちのチームも4月入社の新人1人と経験の浅いスタッフが何人かいる状態ですがなんとかなっていますね。
DS:皆さんシンプルな機能しか使ってないですよね。
本間氏:LightWaveは最新機能はあまり必要な人がいないですね。
木村氏:でも、壊れ物やりたいよね。粉砕のモデラーの機能がもう少し綺麗に壊れてくれたらいいですね。
たくさん壊れちゃうとその中で探すのがめんどくさいので、もう少し精度が高くなるといいかな。
上保氏:数をすごく増やして粉砕するとポリゴン自体が崩れてラインポリゴンになったり1ポイントだけになったりしてしまうので。
形状の指定が出来るとうれしいですね。
最後に御社がLightWaveを3DCGのメインツールとして選ばれる理由を教えてください。
木村氏:元々がLightWaveユーザーだった人が集まった会社ですからね。最近は3ds MAXの人が増えてきましたけど。あとはコスト面ですね。
上保氏:導入コストに関しては大きいですね、人数が増えてもすぐに対応できるくらいの価格ですし、あと動作の軽さもいいですね。今回、艦隊の数がかなり多かったのですが、普通に作業できました。
DS:シーンの中にたくさんオブジェクトがあるとやはり重くなりますか?
本間氏:今回これだけの戦艦の数を3ds MAXで動かそうと思ったら難しかったと思います。
木村氏:今回、ローモデルをそんなに作っていないんですよ。
上保氏:実は第一章に出ている大量の艦隊のモデルも全てハイモデルのままなんです。
木村氏:そこまで時間もないし、全部サブパッチを使っていないので。
本間氏:だから、たぶん億単位のポリゴン数になっていると思います。それでもレンダリング時間はたいしてかかっていなかったので、それだったらもうそれでいこうと。
木村氏:アニメならLightWaveは全然戦えます。
DS:今後、木村さんのチームでどのような人材がほしいですか?
本間氏:なにも言わないでも勝手に全部やってくれる人でしょ。(笑)
木村氏:うん。やる気のある人なら大丈夫です。
上保氏:やる気がないと仕事がヘビーなので心が折れちゃうと思うので。
木村氏:結局好きじゃないとできないですね。好きじゃないとこの程度でOKでしょというふうになってしまいます。
CGが好きとか、宇宙戦艦ヤマトが好きとか。あと、こだわりを持てる人がいいですね。あまりこだわりすぎるのも納期があるので困るんですけど。(笑)
残業とかもあるかもしれませんが、とにかくやる気のある人がいいですね。
上保氏:新入社員も第一線でばりばりやってもらっているので、やる気さえあれば大丈夫です!
DS:未経験でも可ですか?
木村氏:可ですよ。やる気です。できれば、3DCGが大好きで、センスがあるほうがいいですけどね。
DS:作業をやりながらこの子はこの作業より、別の作業のほうがセンスがあるからこちらをやらせようなどといったことはあるのですか?
木村氏:そういうのもありますが、基本的には全般的にやってもらいます。
僕も最初はモデラーでしたが、すぐに全部やることになりましたから。
上保氏:LightWaveを使っている会社は割とジェネラリストな人が多い気がします。
木村氏:今は会社も大きくなったので、モデリングはモデラーに頼むようになったのですが、攻殻機動隊のときは車をモデリングすることが多かったので1人ずつに車を依頼してモデリングしながらシーンを作ったりしてました。1人で車6個作ると半年かかってしまいますからね。ただ、難しいモデリングの場合は得意な人に依頼するとかしてましたが。
上保氏:今のうちのチームは完全にモデラーさんに作ってもらっています。
木村氏:モデラーだと全体的なフォルムを作る能力が必要になりますが、アニメーションしながらちょっと修正するくらいならそこまでの能力は要らないので使い方さえわかれば、多少の修正はできるようになりますからね。そういった意味でも全部出来る人がいいですね。あとは会社に入るとファイルのネーミングルールとかがありますが、そういったところに気を使える人がいいです。
皆様とのインタビューは以上となります。本日はありがとうございました。
ここからは、株式会社サブリメイション 代表取締役 小石川氏にお話しをお伺いします。
初めに、Yamatoworks様と一緒に、YSプラグインを作成されていますが、このプラグインを作ろうとされたきっかけや、どのようなプラグインかを教えていただけますでしょうか?
小石川氏:きっかけは「ガッチャマンクラウズ」のCGパートを2社で共同制作した事です。
現場をタツノコプロに間借りする形で、両社のスタッフが集結しました。それまでサブリメイション、Yamatoworks様ともに別々でプラグインを作成していたのですが、それらを持ち寄った形になりました。
お互いの持っているプラグインの良い所と悪い所が見えてきた結果、さらに良い形にまとめられそうだと気付き、共同で開発を進める事になりました。その後、複数の作品をYamatoworks様と共に作っていく中で、プラグインも新しい機能を増やしていきました。これがYSプラグインの前身にあたります。
今回、社内ツールのため開発効率を優先して簡素にしていた部分などを見直し、機能の改善も加え、一般の方にも広く使って頂く事を目的にブラッシュアップしたものがYSプラグインです。
YSプラグインの内容は多岐に渡りますが、一言で言うと「セルルックCGアニメーションを効率よく作るために、現場が欲しいと考えた機能一式」です。
基本的にはYSプラグインが無くとも、LightWave単体で同じ物が作り出せます。しかしYSプラグインを使う事で、とても効率的に作業を進められるようになります。
YSプラグインダウンロードページ:YSプラグイン
多くのプロジェクトに関わっているために、より多くの人材が必要と伺っておりますが、現在、御社の人材確保や人材育成等の取り組みを教えてください。また、御社から人材募集についてどのような人材が必要かも併せて教えてください。
小石川氏:人材確保・育成の取り組みについては、色々な事を試しています。
ひとつ大きな取り組みとして、デジタルハリウッド様、名古屋デザイナー学院様など各学校にご協力を頂き、サブリメイションのディレクターが学生に対して直接授業をさせてもらっています。
学校の授業では、ゲームやVRなどのリアルタイム向けだったり、実写合成向けだったり、様々な技術を教えていますがセルルックアニメーション向けの技術を教えているところは少ないと思います。
そこで、サブリメイションの技術を直接教えに行き、在学中からプロのやり方を学んでもらい、そのまま弊社の抱える作品で活躍してもらうという流れを作りました。もちろん卒業後は、そのまま就職して頂けます。
また、東京一極集中から、地方の人材活用に考え方をシフトしました。
名古屋と仙台に地方スタジオを設立し、地方にいながらにして、アニメーション制作に携われるようにしました。
同業他社が少ない地域で人材を集める事で、優秀な人材を確保しやすく、また地方ならではの物価や通勤環境などクリエイターにとってより働きやすい環境を提供できるようになりました。
求める人材は「仕事を選り好みせず、何にでも興味を持ってトライしてくれる人」です。
サブリメイションはジェネラリスト志向の会社で、基本的にモデリングからセットアップ、アニメーション、コンポジットまで全ての工程を仕事としてクリエイターにお願いしています。
CGプロダクションに多い、明確な分業体制はとっていません。
所々で専門的に1つの工程だけをお願いする事もありますが、基本的にはアニメ制作の流れに従い、皆でモデリングし、皆でセットアップをし、皆でアニメーションを付けます。
そうする事で手空きになる人材を出さず、予算を無駄に使わず、スケジュールの悪化も防ぐ事ができます。
クリエイターに対して要求される技術力は高くなりますが、むしろその結果、良質なクリエイターが育っています。